2019年度第1回歩行セミナーレポート:踵接地編(公開中)

こちらは、2019年度より実施している脳外臨床研究会歩行セミナーの第1回の「歩行において踵接地がなぜ重要なのか」のセミナーレポートになります。

各地域(大阪や名古屋では満員御礼で)で沢山の受講生にセミナーを参加して頂き誠にありがとうございます。

セミナーを通して、皆様と臨床場面での疑問や悩みなどを少しでも共有できたことを非常に嬉しく思っております。

こちらのセミナーレポートでは、講義の中でお伝えした内容や、アンケートなどから頂いた質問等を踏まえ、皆様が臨床に戻ってからも少しでも学んだことを活用して頂き、皆様の臨床での一助として、そしてその先の患者様のリハビリに是非活かして頂ければ幸いです。

今回はセミナー内容から前編・後編と内容を分けております。

まずは前編では、歩行をみるための講師である私自身が考える『脳卒中片麻痺歩行を見る原理原則』の部分を、後編ではその原理原則を考えた上で、なぜ踵接地が必要になるのかという内容をお伝えしていく形となっております。

この簡易版レポートは歩行セミナーの概要についてセミナー内で話す内容を簡単にまとめたものです。より細かい部分に関しては是非セミナーにご参加ください。なお、レポートに関しては、無断での転記等はご遠慮いただきますよう宜しくお願い致します。

歩行を見る際の重要な3つの視点

まず初めに、普段の臨床場面での片麻痺患者様の歩行分析について、日々私自身が臨床場面で行っている歩行をみる際のポイントをお伝えしました。

よく歩行分析については日々悩まれる方が多く、セミナーでも具体的に「どこをみれば良いですか」や「何をみていけば良いですか」と問われることが多くあります。

セラピストの経験年数や技術や経験などにより、歩行分析をする際に何を指標とし、どういったことを共通理解していく必要があるのか、ここは非常に難しく、どうしても主観的な部分に頼ってしまう部分ではあります。

通常なら正常歩行といわれるものに如何に近づけられるかといったことを臨床では行うことが多くありますが、脳を障害を受けた片麻痺患者様は様々な問題点があり、正常歩行に必要な関節可動域を上げたり、その際に必要な筋力を上げただけでは歩行自体が変化しないのが実際です。

では、そうなった場合に歩行においては何をみて、そこからどういった原因追及をしていく必要があるのでしょうか?

その際に、私自身は『脳卒中の方には脳卒中という脳の病気を考慮した』歩行分析の見方や考え方が必要になってくると思います。

そうなった際に歩行において脳機能がどういった関りがあるのか?

例えば、歩行時の遠心性収縮による筋の働きは脳のどういった機能が重要になるのか?

遊脚期から立脚期にかけての下肢の制御に関しては、随意運動の要素や運動麻痺がどういった影響を及ぼすのか?

そういった歩行における脳機能を理解することも非常に重要となってきます。

セミナーでは、こういった脳と歩行の関係性においても時間をかけお伝えしています。

※筋緊張を理解するための脳機能の一例

前述したように、歩行において脳機能が何を、どのように制御しているのかを知ることが必要となりますが、では実際に何をみればよいかが明確になってないことは非常に多くはないでしょうか?

だからセラピスト間でも、これを必ずみるといった一定して評価チャートが存在しないのも事実だと感じます。

その際に必要となってくるのは、歩行をどの視点からみるか?といった点になると思います。

その中で講師である私自身が大切にしている要素として、歩行を3つの視点からみている点についてお伝えさせて頂きました。

歩行をみる3つの視点
  • 重心の位置がどう移動するのか
  • 床反力がどう立ち上がっているのか
  • 下肢アライメント(関節運動)がどうなっているのか

では、なぜこれら3つの視点が重要になるのか?

まずはこれら歩行における3つの視点についてそれぞれお伝えさせて頂きます。

重心移動がなぜ必要なのか?

歩行において最も重要な要素は、我々が歩いて移動するためには、ヒトという物体が移動するためにその物体のもつ重心を移動させることが必要になります(当たり前の話になりますが)。

そして、その重心を移動させるための力がどこからか生じない限り、とどまっている物体は永遠に動くことはありません。

そうなった時に考えるべきことは、そもそも歩行において重心ってどのように移動するのかという点についてです。

それは歩行というものを力学的モデルで考えた場合、より効率な歩行機能獲得のためには重心移動の軌跡を知ることがとても重要な要素になります。

そして、この重心移動によって、身体に対する何らかの作用が起こり、結果的に効率の良い歩行を生み出すための振り子運動という動きを促すことにつながります。

これは2つの振り子運動において、重心移動が円滑に起こることで、力源がなくてもロボットが歩いているような移動を続けることができるといったひとつの動画を例に通してお伝えしました。

そして、この振り子運動が歩行の各周期においてどのような関係性をもっているのか、
(例えば、立脚中期で重心が最も高くなり、位置エネルギーが高まることで、その後の立脚終期に必要な股関節伸展運動の動きにつながるということ。そして、その時期においては前方への不安定性に対して下肢筋群がどういった働きで重心落下を制御しているのかといったことなど)をお伝えしました。

その際に、まず知っておいて欲しいのは正常歩行で起こるで重心移動の軌跡を理解すること、その中で患者様はどの部分で崩れが強くみられるのか、ここをまずは評価する必要があるということです。

特に重要な部分に関しては歩行時における重心の上下動の動き左右の動きをまずはみる必要があるということをお伝えしました。

その中で重要なことは、特に立脚期での重心の位置をある程度予測・把握することが必要だということについてお伝えしました。

歩行における重心移動の軌跡

  • 初期接地では重心下降が起こり、それを止める必要がある
  • 立脚中期では重心が最も高く持ち上がり、その時期に支持基底面内には重心がのっていない
  • 立脚終期は重心が落ち、股関節運動を助ける

では、この重心移動が歩行のどういったことに関わりをもつのかをみていきたいと思います。

重心移動がなぜ必要なのか?

歩行周期の中で重心が最もあがる相はどこになるのか?

これは単脚支持が必要な(片脚立ちになる相)立脚中期に起こり、この立脚中期での重心の持ち上げが、次の立脚後期に必要な股関節伸展を引き出すための重要な要素となります。

この時期に重心が一番持ち上がることで位置エネルギーが高値となり、その後の立脚後期には重心が落ちるといった運動エネルギーに変換されることによって大きなパワーを必要とせず、立脚後期への移行が可能となるとされています。

では、なぜ重心が持ち上がることが必要になるのでしょうか?

近年歩行獲得において重要視されるのが、この立脚後期に伴う股関節屈筋群(腸腰筋)の筋伸張刺激が、次の遊脚期につながるCPG発火のトリガーだとされていることです。

どういうことかというと、立脚期に伸びた股関節屈筋群がその筋が伸張された反動(バネのような役割と理解してもらえたらイメージしやすいです)で、次に筋肉が縮まるといった脊髄反射レベルでの力を発揮することが、実は遊脚期での股関節屈曲による振り出し力に大きく関わるとされています。

そして、もう一つ立脚終期の後ろ足の位置を作れることで足関節背屈角度が増大します。

この足関節背屈に伴うTrailing Limb Angle(TLA:大転子から第5中足骨頭へのベクトルと垂直軸のなす角度)に依存した足関節底屈筋群の活動(遠心的な筋の伸張)が、その後の蹴り出しの力源に繋がることが重要視され、立脚後期を作ることが歩行における前方推進力に大きく影響を及ぼすということが多数報告されています。

しかし、実際の臨床場面での片麻痺患者様の歩行の多くがこの立脚後期が作れないという問題が生じます。

その際にみるべきポイントとしては、立脚終期の支持脚が後ろにいく(いわゆる股関節伸展位)の姿勢を作ることだけではなく、その前の相である立脚中期での重心持ち上げがどれだけできるかが非常に重要となります。

患者様の多くはこれが困難となり、立脚中期の重心を持ち上げるための体重支持ができず、その際に股関節屈曲位への崩れ(代償)を呈しやすく、結果として前方への重心落下が引き出せないことで、前方移動に対する加速度を体幹前要素で代償する必要がみられてきます。

なので、まずは歩行を考える際にはこの立脚中期でみられるような重心持ち上げに必要な肢位が静的立位の段階からでも可能かどうかを評価する必要性があります。

まずは重心の位置がどういう位置にあり、それを左右や前後に少し移動させた際に身体機能反応としてどういった現象が起こるのか(例えば、麻痺側下肢へ重心を移動した際に麻痺側方向へ崩れていくのか、膝などが屈曲し、重心の位置が下がってしまうのかといったまずは簡単な評価から)をみていくことをお伝えしました。

床反力と下肢アライメント

もう一つ考えるべき重要なポイントが『床反力がどこを通っているのか』になります。

これは簡単にいうと床を押す力に対して、どれだけ反対の力が作用しているかということをみていきます。

どういうことかというと、歩行は重心が常に移動し続ける動きになるので、その際に下肢(足底内の)のどの部分が、どのように接地(支持基底面を作るかによって)し、それに対してどういった力を返すのかといったことを理解・把握することで、実際の重心にかかる床反力の変化を見ることができます。

例えば、今回のように踵接地があれば、床からの反力は足関節の軸に対して底屈モーメントを作り出し、その際の前脛骨筋の遠心性活動によって、下腿を前方へ引き寄せる動きへ変わります。

こういった歩行のフェーズでおこるモーメントの考え方などは歩行セミナーでより詳しく実技などを通してお伝えしていきます。

そして、その力が大腿へと波及することで、よりスムーズな前方への重心移動に繋がることが正常歩行の力学的な運動として捉えられています。

しかし、その踵接地が何かの理由で阻害されたとき、足尖支持となることで、足関節軸に対して加わる力は前方へ移動し、足関節に対しては背屈方向へと力(モーメント)が作用します。

それによって、下腿がそのまま前方へ崩れ(背屈方向へ)、結果膝折れ様の崩れを呈すか、もしくは床反力がその上の関節である膝関節軸の前方を通る床反力ベクトルの作用によって、膝の過伸展(バックニー)を引き起こしてしまう原因に繋がります。

このように床反力が関節に対してどこを通り、どういった力が作用することで下肢にはどういった筋活動が必要になってくるのか、それに対して下肢アライメントがどのように変化していくのかを我々は臨床場面では把握していくことが非常に重要となってきます。

こういったことを歩行の一連の中では評価し、なぜ膝折れが生じるのか、なぜバックニーが起こるのかを瞬時に判断・分析しなければなりません。

しかし歩行というのは連続動作であり、動作分析が苦手なセラピストにとってはそういった動きに関しても必ずしも現象のすべてをとらえることはできません。

そこで、歩行をまず見る前に、ある程度上記のような重心の位置や床反力がどう変化するかを臨床上簡単に評価できるようになれば、その後の歩行の評価がより明確になります。

その場合の評価を考えた際には、まずは立位場面での純粋な重心移動によっても、ある程度の重心位置の変化に対する身体反応をみることで、そのヒトはどの方向には重心移動がしやすく、どの方向へいくと崩れるもしくは下肢アライメントが変化するのかを評価することは可能になってきます。

そして、実際のステップや歩行場面での重心移動に対して、そもそも自身で重心移動が可能なのか、はたまた介助をすることで可能となるのか、そして、その際にどういった床反力の変化があり、どういった形で重心を制御するのかを胸郭を把持したハンドリングの中で感じていくことの重要性をお伝えしました。

歩行をみるためには

つまり、歩行に対する治療介入を行った際にも、正常歩行に必要なフェーズ(今回でいうと踵接地そのもの)がでる・でないということももちろん大事になるのですが、それと合わせて、実際の歩行場面の中で重心の位置や変化がどのように反応性としてでているのかも評価できることで、歩行治療の効果判定になってくるのです。

そういった意味でも、上記3つの視点を考えながら臨床でのアプローチを考えた際に、何を指標に、何の目的でみるかによって、実際の治療の立て方も大きく変化していくことがありますので、是非今回の視点を日々の臨床場面で試してみてください。

歩行をみる3つの視点
  • 重心の位置がどう移動するのか
  • 床反力がどう立ち上がっているのか
  • 下肢アライメント(関節運動)がどうなっているのか

歩行セミナーではセミナー後の皆様が学習できるよう実技動画なども作成し、皆様へ配信できるような取り組みを行っています。

是非セミナーにご参加頂き、職場に持ちかえった際に復習や練習ができるようにご活用ください。

 

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